【橘高淳 審眼(45)】2005年9月7日の中日―阪神戦(ナゴヤドーム)は、両チームのファンの方々の記憶に残っている試合の一つでしょう。1勝、1点が優勝の行方を左右する大一番をマスコミの方々は「天王山」などと表現し、ファン心理をあおります。振り返ってみれば、あの試合はそういった要素を持っていたんでしょう。
現在のようにリクエスト制度があれば合理的な判断が下され、退場者が出ることもなかったかもしれません。このリクエスト制度は18年から導入されています。審判員の判定に対してチームが疑義を抱いた場合、監督が映像による判定の見直しを求められる制度です。
映像による判定の検証、リプレー検証は以前から導入されており、審判団が必要と判断した場合に実施されていました。それがさまざまな経緯を経て、18年から監督が審判団にリプレー検証を要求できるようになりました。そのルールはセパ両リーグのアグリーメントで定められています。
ルールブックでは、あくまで審判員による判定が最終決定であることに変わりありません。ただ、このアグリーメントによる追加ルール、つまりNPBの特別ルールとして導入されていると表現していいでしょう。
リクエストの対象となるのはアウトかセーフ、ファウルかフェアかが最初の運用でした。そこから本塁での衝突プレーや併殺崩しの危険なスライディング、いわゆるコリジョンルールの適用判断、頭部死球、本塁打以外のフェンス際の打球判断など適用範囲が広げられていきました。
一方でストライクやボール、ハーフスイングの判定、自打球や走塁妨害、守備妨害の判断などについてリクエストすることはできません。リクエストの末に下された結果に対して抗議があった場合は、退場ということになります。このように野球に関するルールは時代によってどんどん変化しています。
MLBではピッチクロックが導入され、マイナーリーグではロボットによるストライク、ボールの判定も試験的に運用されています。といっても捕手の後ろに球審が立ち、音声で判定のサポートをするというニュアンスだそうです。ロボットが判定した結果を踏まえてストライク、ボールを宣告するのはあくまで審判ということです。
つまり、ロボットが「ストライク」と言っても審判が「ボール」と言えばボールになる。演出とは言いませんが、誰かの引退試合であったり特別な場合であれば、あえてロボットのサポートを無視するなんてこともあるのかもしれません。