フランス、新たな形で「兵役」復活へ 16歳の男女に奉仕義務
ルーシー・ウィリアムソン BBCパリ特派員

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フランス政府は27日、16歳の国民全員に対して公共奉仕の義務を課す計画を発表した。期間は4カ月から1年余りが検討されている。
昨年の大統領選で兵役復活を公約の一つに掲げていたエマニュエル・マクロン大統領は、フランスの若者たちの国民としての義務感や団結心を育てると主張していた。一方で、兵役がもたらす効果への疑問の声も出ている。
期間は2段階に分割
計画では、2段階に分けられた奉仕活動に男女両方が参加する。1カ月の期間が義務付けられた第1段階では、市民文化が中心テーマで、政府は「若者たちが新しい人間関係を得、社会的な役割を高めるのを助ける」と説明している。
期間中の奉仕活動として、従来と同じ警察や消防、軍での訓練に加えて、ボランティアで教育に携わったり、慈善団体で働くことなどが選択肢として検討されている。
第2段階の期間は最短3カ月から最長1年で、「国防や安全保障に関連した分野」で奉仕活動を行うことが推奨されているが、伝統文化や環境、福祉分野でのボランティア活動も選択肢に入る予定。
計画は当初より後退
マクロン大統領の当初の計画は、これよりも野心的だった。
昨年の大統領選でマクロン氏は、18~21歳の若者が「軍での生活を直接経験する」、簡易版の軍隊経験とも言える兵役を提案していた。

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「普遍的国民奉仕」と呼ばれる今回の計画が、当初より後退した背景には、国軍に対する負担が大き過ぎることや、費用も膨大になることへの懸念があった。
現在の計画でも、年間の費用は16億ユーロ(約2040億円)に上り、導入時にも17.5億ユーロが必要だとみられている。
マクロン氏の目論見
フランス政府は新たな形での義務的な公共奉仕が、若い国民に国家としての活動への参加を促し、社会的なまとまりを高めるとしている。
政府は来年早々にも開始したい考えで、これから意見を募集する。ただし、法的根拠をはじめとして、多くの詳細は決まっていない。
新制度の検討のため設置されたワーキング・グループは、国家が国防以外の目的で特定の層の国民全員を召集することは憲法で禁じられている、と指摘している。
計画を支持する声はあるのか
計画の発表前も、強制的な参加に反対する14の若者団体が計画に「矛盾」があると指摘。「献身の対象を選ぶのは、献身そのものと同じくらい重要、あるいはそれ以上に重要だ」として、若者たちには選択の自由があるべきだと主張した。
世論調査会社YouGovが今年3月に実施した調査によると、国民全体では約6割が賛成した。ただし、若者に絞った場合には、賛成は過半数をやや下回った。
フランスは1996年の時点で、新規対象者の徴兵を停止した。このため当時18歳だったマクロン大統領は徴兵されず、兵役を経験したことのない初めてのフランス大統領になった。
第2次世界大戦後の徴兵制度では、仏国民の若い男子全員が1年近い兵役を義務付けられていた。段階的な廃止が1997年に完了した際には、安堵の声が国内で上がった。兵役を懐かしむ人々は、当時の経験が軍隊の訓練よりも社会性を育む機会になったと語っている。
廃止から20年以上がたった現在、マクロン大統領は「徴兵制」復活によって社会的な団結を取り戻したいと考えている。

世界の徴兵制度
- 北朝鮮の徴兵期間は、男性が11年、女性は7年と、世界で最も長期間にわたる
- イスラエルの兵役義務は、男性が3年、女性が2年となっている
- スカンジナビア諸国、スイス、オーストリア、ギリシャなどが欧州で徴兵制を維持している
- 世界最多の兵士を擁する中国では、兵役義務が名目上存在するが、志願者で必要人数が埋まるため強制されていない
- インドは、英統治時代も含め、国民に一度も兵役義務を課したことがない。兵士の数が世界で第2位のインド軍は志願者で構成されている
- 英国で徴兵制が最も最近実施されたのは1960年。米国では1973年
- イランでは、男性に2年の兵役義務が課されるが、兄弟のいない男子や医師、消防士、ゲイやトランスジェンダーは兵役義務が免除されている
